個人民事再生の急所

2003年10月24日掲載 2004年1月14日更新

 本ホームページがきっかけとなって,借金問題のご相談にあずかることがありますが,現在までのところ,そのすべてが個人民事再生,とくに給与所得者等再生に関するものでした。
 大阪では,現在,月間約150件,個人民事再生の申立てがあり,全国一の申立件数となっています。
 個人民事再生は,条文が複雑なうえに,裁判所の運用で補っているところも多いことから,わかり易くご説明するのは大変ですが,ここでは,その要点・急所といえるところを記します。
 なお,借金問題Q&Aの<個人民事再生について>を初級編とすれば,本コンテンツは中級編となるものです。

(申立て関係)

(履行可能性テスト)

(住宅ローン関係)

(保証債務の関係)

(再生計画案関係)




申立て関係

給与所得者等再生での「可処分所得の2年分」とは,おおよそ幾らになるのでしょうか。目安となる金額はありますか。

 ここでは,正確な計算方法ではなく,可処分所得を算出する考え方の概略と,その目安額について記します。
 考え方の概略は,第1に,給与の名目支給総額から,税金(所得税,住民税)と社会保険料を差し引いて,1年間の手取収入を算出します。ここまでは実際の金額に基づいた計算です。
 第2に,ここからがシミュレーションとなるのですが,ある地域にある年齢の人物が一定の家族構成のもとで暮らす場合,幾らの生活費が必要となるかを,実際に要している生活費とは関係なく,あらかじめ決められた表から金額を抜き出して,それを合算します。
 第3に,第1の「1年間の手取収入」から,第2の「1年間のシミュレーション生活費」を差し引いたものが「1年間に返済可能な金額の上限」と考え,この2年分を3年間で返済します。
 そこで,目安として知りたいのが上記第2の生活費として幾らまで認められるのか,についてですが,大阪府下の場合,非常に大胆にシミュレーション生活費の目安額を記しますと次のとおりです。

本人(再生債務者) 約240万円
配偶者 約48万円
子供1人につき 約50万円

 生活費として認められている各項目ごとに分けて目安額を記しますと,次のとおりです。なお,(1)は各人ごとに認められますが,(2)〜(5)は世帯単位でしか認められません(つまり1回しか加算できません)。

(1) 個人別生活費 本人 約48万円
    配偶者 約48万円
    子供 小学生未満 約28〜40万円
      小学生 約45〜60万円
      中高生 約52〜60万円
      大学生 約50万円
(2) 世帯別生活費 約52万円+(家族数−1人)×6万円
(3) 冬季特別生活費 約2万円
(4) 住居費の額 単身 上限約50万円
    2〜7人 上限約65万円
    ただし,住宅ローン・賃料がこれを下回るときは,その金額
(5) 勤労必要経費の額 約53万円

 例えば,大阪市内にお住まいの名目支給総額420万円の夫・妻・子供一人(5歳)の家庭,賃貸マンション暮らしでは,おおよそ次のようになります。

第1段階 420万円−税金・社会保険料70万円=350万円
第2段階 (1) 個人別生活費 本 人 約48万円
    配偶者 約48万円
    子供5歳 約40万円
  (2) 世帯別生活費 約52万円+(3人−1人)×6万円=64万円
  (3) 冬季特別生活費 約2万円
  (4) 住居費の額 上限約65万円
  (5) 勤労必要経費の額 約53万円
  (1)〜(5)の合計は,約320万円
第3段階 (350万円−320万円)×2年分=60万円

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サラリーマン(給与所得者)でも,小規模個人再生を利用できますか。

 利用できます。
 実務上,問題となっているのは,給与は相当程度あるものの,他方,毎月かなりの住宅ローン返済を抱えているような場合です。この場合,可処分所得額の計算では,生活費として認められる住居費の額の上限が月額約5万5000円とされていることから,可処分所得額がかなり高くなってしまい,現実の返済が難しく,給与所得者等再生の手続をとりたくとも,取れない,という事態になります。
 例えば,大阪市内にお住まいの名目支給総額600万円の夫・妻・子供一人(5歳)の家庭,毎月の住宅ローンを12万円として,超目安計算を行うと,次のようになります。

第1段階 600万円−税金・社会保険料100万円=500万円
第2段階 (超目安計算)240万円+48万円+50万円=338万円
第3段階 (500万円−338万円)×2年分=324万円
毎月返済 再生分9万円(324万円÷36回)+住宅ローン12万円=21万円

 年間の名目支給総額が600万円あるといっても,毎月21万円を返済に充てるのは家計運営としてあまりにも厳しいように思われます。
 そこで,給与所得者であっても,小規模個人再生手続を選択して,可処分所得2年分という要件を外してもらい,その代わり,債権者の消極的多数決という関門を選択するという事例がかなりあります。

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ローン会社名義になっている自動車は残せますか。

 個人事業者の方は残せる道がありますが,給与所得者の方は原則的には残せません。また,これは給与所得者の方が,小規模個人再生の手続を選択した場合でも同様であり,やはり原則的には残せません。
 自動車をローンで購入した場合には,再生手続上は,別除権付き再生債権となります。つまり,別除権が付いているとはいえ,本質的には,再生手続開始後は弁済を禁止される再生債権とされます。
 しかし,個人事業者にとって,事業継続のために必要な物件まで別除権の行使により引き上げられてしまうと,その使用により弁済原資を生み出し,再生する道をふさいでしまうこととなることから,例外的に,弁済協定を締結し,再生債権を共益債権化して,支払うことを認めています。
 このようにあくまで例外であることから,例えば,サラリーマンが通勤や得意先回りに自動車を使っている程度では,弁済協定・共益債権化は認められていません。
 そこで,自動車ローンに保証人がある場合などには,保証人が継続して支払うとか,ローンの借入名義を親族と交代してもらうなどして,何とか自動車の使用を継続している例があるようです。

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履行可能性テスト

大阪地方裁判所では,平成16年1月から,履行可能性テストが導入されたと聞きましたが,それはどのようなテストですか。

 大阪地方裁判所から,平成16年1月から,履行可能性テストを導入するとの知らせがありました。大阪地裁からのお知らせ文をもとに,その内容を解説すると次のとおりです。

(1)概略
「予定している毎月の計画弁済額に相当する金員を積み立てることを前提に,再生計画案提出時に,その積立状況に関する資料の提出を受け,これを履行可能性(民事再生法230条2項,174条2項2号,240条1項1号,241条2項1号,住宅資金特別条項を定める場合については202条2項2号)に関する判断材料の一つとして,付議決定又は意見聴取決定を行う運用」
(2)テスト方法
・ 事前の申請 「積立状況,積立予定月額を申立書に記載する」
・ 事後の検証 「計画案提出時に積立状況報告書とこれを裏付ける通帳の写しを提出する」
・ 具体的には 「弁済停止によって生じた金員を別口座等に保管させるほか,受任時から弁済原資の積立てを行うことを積極的」に行うこと
(3)清算価値保証との関係
「この積立ては,弁済原資確保のためのものですから,積み立てた金員を清算価値に上乗せしない運用としていますので,この積立てが原因で最低弁済額が増加することはありません。」
 通常,弁護士へ個人再生事件を依頼し,弁護士から債権者に対して受任(介入)通知を発送した時点から,債権者への弁済は停止するのが一般です(住宅ローンを除く)。そして,債権者への弁済は,再生計画の認可確定後に,その計画に従って行うこととなりますが,弁済の停止から再生計画案の提出までには,申立てに要する期間を含めると約5ヶ月ほどの空白期間があります。
 そこで,この期間を利用して,再生債務者が,その予定している再生計画を本当に実行できるか否かをテストすることとし,具体的には,予定している弁済額を月々,銀行または郵便局に積立て,その通帳の写しを,再生計画案の提出時に「積立状況報告書」として提出することが新たに必要となりました。
 したがって,「申立書に記載された予定積立額が積み立てられていない場合には,履行可能性がないものと判断される可能性もあ」ることから,勤勉に預貯金に励むことが必要です。

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住宅ローン関係

住宅ローン特則は,実際にはどのように利用されていますか。

 住宅ローン特則によって返済条件を変更できるのはむしろ例外で,もっとも多い事例は,金融機関との約定どおりの返済を継続する,というものです。
 金融機関どうしの競争のおかげで,近年は,35年ローン,短くとも25年ローンといった非常に長期のローンを組むことが可能となっています。これをさらに一部でも有利に組み換えることは実際には困難であり,また,住宅ローンを既に延滞している方は,そもそも再生の他の要件を満たさない状態となっているように思われます。
 そして,住宅ローン特則の利用状況に鑑みて,法197条3項が設けられ,平成15年4月1日からは,再生手続開始後も,弁済許可を得て,住宅ローンについては,そのまま中断することなく返済を継続することができるようになりました。

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住宅ローンを借り入れている金融機関から,別口(別口座)で借金がありますが,それでも住宅ローン特則は利用できますか。

 できます。
 この場合,金融機関側では,一旦,すべての口座を凍結してしまうことから,一時的に,住宅ローンの返済・口座引き落としもできなくなります。そのため,金融機関に連絡して,住宅ローンについては約定どおり支払いを継続したい旨を説明し,住宅ローンの返済専用に別途,新たな口座を開設し,その口座からの引き落としとする例が多いようです。

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住宅ローン特則を利用するためには,どのような書類を金融機関から取り寄せる必要がありますか。

 簡単には次のものが必要です。

(1) 住宅ローンの金銭消費貸借契約書
(2) ローンの償還表(月々の返済予定額,残額が明記されたもの)
(3) 保証会社があるときは,保証委託契約書

 詳しくは次のとおりです。

(1) 金銭消費貸借契約書
(2) 償還表
(3) 土地・建物の登記簿謄本(共同担保目録付き)
(4) 上記(3)以外で担保権を設定している不動産があるときは,その登記簿謄本
(5) 再生債務者の居住部分の面積(2分の1であることが必要)
(6) 代位弁済が完了しているときは,代位弁済日

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保証債務の関係

兄の金融機関への借金について保証しています。兄は正常に返済していますが,それでも私の保証債務を借金として手続に加えるのですか。

 保証債務も手続に加えますが,その金額は,現時点でお兄さんが返済できそうにないと合理的に推測される金額となります。
 保証債務の問題は,個人民事再生のアポリア(難問)となっており,抽象的には上記の取り扱いとなりますが,具体的に「将来のデフォルト確率」を予測するのは非常に困難です。そこで,お兄さんが正常返済を続けているときには,債権者一覧表には保証債務を掲げつつ,その債権額を「ゼロ円」とし,債権者から申し立てられるであろう査定の申立てに結果を委ねるという方法をとる方もおられるようです。

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金融機関から借金をする際,保証会社を付けますと言われましたが,再生手続上では,どのように扱えば良いのですか。

 債権者一覧表には,金融機関と保証会社の双方を掲げつつ,金融機関については所定の金額を記入のうえ,異議留保欄に○印をつけ,保証会社については「ゼロ円」(異議留保欄に○印はつけません)とします。
 その後,保証会社が金融機関に対して,代位弁済を完了した時点で,保証会社には代位弁済額を記入し,金融機関に対しては異議を述べる,という手順となります。

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再生計画案関係

再生計画案を作成するための,考え方の順序と,その手順はどのようなものですか。

 第1段階として,トータルでいくら返済するのかを計算します。弁済総額が法定の最低弁済額に達するように免除率を計算します。
 第2段階として,各債権者ごとの弁済額を計算します。
 第3段階として,各債権者ごとの弁済額から,具体的に毎回ごとにいくら返済するのかを計算します。

 違法な再生計画案とならないためには,第2段階において,各債権者ごとの弁済額を計算する際に,必ず1円未満の端数は切り上げることが必要です。
 例えば,負債が3社・500万円のとき,法定の最低弁済額100万円を返済するとして,免除率を80%にしたとします。
 3社の内訳を次のとおりとしますと,各債権者ごとの弁済額は次のとおりです。

300万0006円×20%=60万0001円20銭
99万9997円×20%=19万9999円40銭
99万9997円×20%=19万9999円40銭

 このとき,表計算ソフトの設定で,

(1) 四捨五入のとき
 合計は99万9999円となり,100万円に不足
(2) 1円未満切り捨てのとき
 合計は99万9999円となり,100万円に不足

 そこで,このような場合に備えて,セルの設定を「1円未満の端数は切り上げる」にしておくことが必要です。

(3) 1円未満は切り上げ
 合計は100万0002円となり,100万円以上であり適法

 さらに,第3段階において,各回の割賦返済率については,再生計画案の本文に確定数値を記載することから,具体的には次のいずれかの数値を代入するのが安全です。また,大阪地裁では,各回の分割弁済金についても端数(100円未満または10円未満)を切り上げ,最終回で調整しています。

1カ月に1度(36回) 2.78%
2カ月に1度(24回) 4.17%
3カ月に1度(12回) 8.34%

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再生計画案の提出までに,別除権の行使が終わっていないときは,計画案にはどのように記載することになりますか。
また,計画案の認可確定後に別除権が行使され,不足額が確定したときはどうすればよいのですか。

 再生計画案の「再生債権額が確定していない再生債権に対する措置」欄には定型的な文言を入れれば足りますが,問題は弁済計画表への記載です。
 弁済計画表には,次のとおり記入します。

確定債権額欄には,担保不足見込額を記入して,その金額の上に「担保不足見込額」と明記します。
再生計画による返済総額欄には,担保不足見込額に弁済率を掛けた金額を記入して,その金額の上に「注4」と明記します。
欄外に「注4 この返済総額は見込みであって,確定不足額の金額によって変動することがある。」と明記します。
各回の返済額欄は,不足額が確定していないので,空白とします。
つまり,計画そのものは,担保不足見込額にて立案するものの,現実に返済する金額及び時期は未定のため,当該部分は空白とする,というものです。

 次に,別除権が行使され,不足額が確定するまでは,返済を行うことはできませんが,不足額が確定すると,それから2週間から1カ月以内に,それまでに履行期が到来している回数分について一括して支払うことが必要です。その後は,その他の再生債権と同様に返済を継続します。
 なお,上記の一括支払いが負担とならないよう,不足額が確定する前であっても,その担保不足見込額による各回の返済予定額を定期的に積み立てておくことが必要でしょう。

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