いわゆる代願業務について,建築士に専門家責任が認められました

2004年1月14日掲載
2005年1月10日追記

最二小判平成15年11月14日・判時1842号38頁,判タ1139号73頁
要旨
 建築士が,建設業者からの依頼を受けて,建築確認申請書に自らが工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をし,その後,建設業者に対して工事監理者の変更の届出をさせるなどの適切な措置を執らずに放置した場合には,建設業者から瑕疵のある建物を購入した者に対し,不法行為による損害賠償責任を負う。
登場人物,建築士の行為
「上告人は建築,土木工事の設計及び監理を目的とする有限会社であり,その代表者であるAは一級建築士である。
 Aは,設計図書を作成し,平成6年6月2日,これらを添付図書として,B株式会社のために本件建物の建築確認申請を行った。その際,Aは,建築確認申請書の工事監理者欄に一級建築士の肩書を付した自己の氏名を記載するとともに,Aを工事監理者とする旨の選定届(Aが工事監理をすることを承諾する旨の記載及びAの記名押印のあるもの)を作成し,これを上記建築確認申請書に添付した。」
建築士法,建築基準法の規定
建築士法3条から3条の3までの規定は,各規定に定められている建築物の新築等をする場合においては,当該各規定に定められている一級建築士,二級建築士又は木造建築士でなければ,その設計又は工事監理をしてはならない旨を定めており,上記各規定に違反して建築物の設計又は工事監理をした者には,罰則が科せられる(同法35条3号)。
 建築基準法5条の2の規定は,上記規制を前提として,建築士法の上記各規定に定められている建築物の工事は,当該各規定に定められている建築士の設計によらなければ,することができないこと,その工事をする場合には,建築主は,各規定に定められている建築士である工事監理者を定めなければならず,これに違反した工事はすることができないことを定めており,これらの禁止規定に違反した場合における当該建築物の工事施工者には,罰則が科せられるものとされている(建築基準法99条1項1号)。
 そして,建築士法18条の規定は,建築士は,その業務を誠実に行い,建築物の質の向上に努めなければならないこと(同条1項),建築士には,法令又は条例の定める建築物の基準に適合した設計をし,設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務があることを定めている(同条2項,3項)。」
法令の趣旨目的,業務の独占から生じる責務
建築士法及び建築基準法の上記各規定の趣旨は,建築物の新築等をする場合におけるその設計及び工事監理に係る業務を,その規模,構造等に応じて,これを適切に行い得る専門的技術を有し,かつ,法令等の定める建築物の基準に適合した設計をし,その設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務が課せられている一級建築士,二級建築士又は木造建築士に独占的に行わせることにより,建築される建築物を建築基準関係規定に適合させ,その基準を守らせることとしたものであって,建築物を建築し,又は購入しようとする者に対し,建築基準関係規定に適合し,安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一つとするものである。」
建築士の専門家責任,注意義務の内容
「建築物を建築し,又は購入しようとする者に対して建築基準関係規定に適合し,安全性等が確保された建築物を提供すること等のために,建築士には建築物の設計及び工事監理等の専門家としての特別の地位が与えられていることにかんがみると,建築士は,その業務を行うに当たり,新築等の建築物を購入しようとする者に対する関係において,建築士法及び建築基準法の上記各規定による規制の潜脱を容易にする行為等,その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があるものというべきであり,建築士が故意又は過失によりこれに違反する行為をした場合には,その行為により損害を被った建築物の購入者に対し,不法行為に基づく賠償責任を負うものと解するのが相当である。」
事案に対する判断,義務違反
「本件をみると,前記の事実関係によれば,上告人の代表者であり,一級建築士であるAは,建築確認申請書にAが本件建物の建築工事について工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をしたのであるから,Aには,自己が工事監理を行わないことが明確になった段階で,建築基準関係規定に違反した建築工事が行われないようにするため,本件建物の建築工事が着手されるまでに,B株式会社に工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執るべき法的義務があるものというべきである。」
 「ところが,Aは,何らの適切な措置も執らずに放置し,これにより,B株式会社が上記各規定による規制を潜脱することを容易にし,規制の実効性を失わせたものであるから,Aの上記各行為は,上記法的義務に過失により違反した違法行為と解するのが相当である。そして,B株式会社から重大な瑕疵のある本件建物を購入した被上告人らは,Aの上記違法行為により損害を被ったことが明らかである。したがって,上告人は,被上告人らに対し,上記損害につき,不法行為に基づく賠償責任を負うというべきである。」
判例批評
判例評論551号16頁(判例時報1873号186頁)
コメント
建築士について,法令上,専門家としての特別の地位が与えられていることから,建築物を建築し,または購入しようとする第三者に対して,規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務を肯定して,当該義務違反による不法行為による損害賠償責任を肯定したものです。
建築士の専門家責任,工事監理(の懈怠)という近時のホットな話題に関連して,しかも,いわゆる代願業務について厳しい判断を示したものであり,注目すべき判決です。

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